身の回りの生き物についてあれこれ書いてます。更新は1〜2週間に一度、週末です。詳しくはこちら。

2012年6月3日日曜日

ナインライブスだからあと5回出会うのかもしれない


わたしは幽霊とかスピリチュアルとか風水やら占いやら
信じない無神論者の無粋な人間である。その理由としては、
宇宙規模のすべての神秘的な奇跡により、いま私たち
人類は偶然にこの地球というすばらしい星に間借りさせて
もらっているのだが、その宇宙規模の神秘が人間に特化
して、さらに個人の恋愛問題や部屋の模様替えなど些末な
問題まですべて作用してくれると思うのはチト虫が
よすぎるのではないかと思ってしまうからである。
(また、幽霊については信じると恐ろしいので信じない
という教義を積極的に採用していきたいのである。)
全ては偶然にすぎない。我々は塵と灰である。

...と言う前口上を全て覆して申し訳ないが、ひとつ、
秘密を告白しよう。わたしは呪いにかかっている。
なんの呪いかというと、「茶トラ猫の呪い」である。

それは小学校6年生のこと、クラスの友人が子猫を2匹
拾ってきて、クラスの皆で里親探しをしながら(クラスの
誰の家でも飼う事が出来なかったのだ)順番でその猫を
預かる事になった。わたしは猫を飼った事はなかったが、
猫に対する無限の憧れがあった。3年生のとき、猫を
飼ってる友人がクローバー咲き乱れる団地の芝生の上で
「猫とはね、鼻と鼻をくっつけると心が通じ合えるんだよ」
と得意げに秘密を開陳してくれたのだ(その場に猫は
いなかった)。 心が通じ合える?そんな、童話のような、
ムツゴロウさんのような事が現実に起こるのか。
いいなあ、猫。きっとわたしなら(誰よりも)猫と分かり
合えるはず。という子供らしい独善的な思い込みにより、
わたしはその時、猫との運命を勝手に感じはじめた
のだった。しかし友人は続けて言った。
「でも、それが出来るのは飼い主だけだよ」
猫の飼い主。なってみたいな猫の飼い主。わたしこそ猫の
飼い主に相応しいはず。どこまでも自分中心主義の子供で
あった。

さて、そんな事だから、わたしはその子猫をぜひとも飼い
たかった。親に頼んでみたが、頼む前から答えは分かって
いた。ノーである。わたしの母は、その頃たいへんな猫
恐怖症だったのだ。とんでもない。
しかし、頼み込んで、何度か預かり当番になる事だけ
なんとか許してもらった。猫は茶トラとサバトラだったが、
茶トラの方は体も小さく、弱々しかった。靴箱の中で寄り
添って眠る2匹は、全てのパーツがちっちゃく柔らかく、
ぷっくりとしたお腹が上下に動くさまは、とてもかわい
らしかった。
そうしているうち、やはり弱い子猫のうちに環境がころころ
変わったり、子供に触られたりしたのがよくなかったの
だろう、茶トラの子猫はある日、別の友人宅で預かっている
時に死んでしまった。知らせを受け、悲しくて悲しくて
ベッドで布団にくるまって泣いていたら、そのうちに寝て
しまった。
やがて、うすぼんやりと、寝ているのか覚めているのか、
うつつの浅い眠りの中で、何か、軽い生き物が背中を
歩いているのを感じた。とす、とす、とす、と歩いている。
あっ、死んでしまったあの猫だ。と思い、また眠りの中へ
引き込まれてしまった。きっと、それは只の夢だったの
だろう。
次の日、 クラスで子猫のお葬式をした。わたしは
「ごめんね、ごめんね、生まれ変わったら次は幸せに
なってね」
と祈っていた(まだその頃は生まれ変わりを信じる
ウブな子供だった)。

その後、サバトラの猫はめでたく里親が見つかり月日が
流れ。高校生になったわたしは、茶トラ猫に再会する。
学校の生物室で捨て猫の里親募集をしていたのだ。
大きくなった分、主張の強くなったわたしは、今度は
親の説得に成功し、その茶トラをもらってきた。はじめて
の私の猫。彼女はそれから23年我が家の家族であった。

そして、20歳の頃にもまた用事で近所を自転車で
走っているとき、茶トラの子猫を拾ってしまった。
ごていねいに「拾ってください」とマジックで弱々しく
書かれた段ボール箱に入って、ノミだらけで力一杯
泣いている。これを拾わずおれるものか。あわてて
連れ帰り、2度のシャワーの洗礼(本人にとっては拷問
だったかも知れぬ)を浴びせ、飼い手を探してはみたものの
そのうちにすっかり我が家の家族と相成った。

結婚して家を出るとき、すっかり家と母になついている
2ひきの猫達は、環境を変えたらかわいそうなのでは
ないかと実家に残してきた(と書くと大げさだが実家は
徒歩5分である)。
が、結婚後もまた茶トラの罠があったのである。道ばたを
散歩していると、うらぶれた、今にもつぶれそうなペット
ショップの軒先に「あげます」と書かれた鳥かごに入った
茶トラ猫。ペットショップであげますなどと、この打ち捨て
られよう、看過出来ようか。またしても。あえなく陥落、
もらって帰る事となり、ソファでこの瞬間も一緒に
ダラダラ過ごしたり、鼻と鼻をくっつけあっているという
現在に至るのである。

かわいそうな最初の子猫が生まれ変わったにしては数が
合わないが、なんとなく、あの子猫が呪いをかけて生涯
茶トラ猫と付き合うように定められたのかもしれぬ、と
勝手に思っている。これが「茶トラ猫の呪い」の一部始終で
ある。
...のだが、もしかしたら、明日は黒猫を拾うかもしれない。
宇宙は偶然に支配されているのだから。












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